しゅんぼう     とほ
春望    杜甫 作          

            くにやぶ     さんがあ
国破山河在     国破れて山河在り
            しろはる     そうもくふか
城春草木深     城春にして草木深し
            とき   かん     はな   なみだ そそ
感時花濺涙     時に感じては花にも涙を濺ぎ
            わか    うら      とり   こころ おどろ
恨別鳥驚心     別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
            ほうかさんげつ  つら
烽火連三月     烽火三月に連なり
            かしょばんきん   あた
家書抵萬金     家書萬金に抵る
            はくとう か       さら みじか
白頭掻更短     白頭掻かけば更に短く
             す    しん   た          ほっ
渾欲不勝簪     渾べて簪に勝えざらんと欲す

【作者】 杜甫(712〜770)盛唐の詩人。李白とともに唐代最高の詩人。湖北省襄陽県の人であるが、洛陽に近い河南省鞏県で生まれた。三十五歳ごろまで、呉、越、斉、趙の間を遊歴、この間に李白、高適と交わり、詩を賦したりしている。役人として職に就いたり、解かれたり、左遷されたり、又、戦争に巻き込まれたりもした。760年、剣南節度使の厳武に見出され、四川省成都の郊外に草堂を建てて住んだ。この時期は、杜甫の一生の内で比較的平穏な時期であった。765年厳武が死に、蜀の地が乱れた為、又、貧と病に苦しみながら、四川、湖北、湖南の地を流浪し、770年湖南省耒陽県で不遇のうちに生涯を終えた。

【解説】 長安の荒廃した様を見てうたったもの。757年、作者46歳、長安での作。詩の前半は眼前の景を見て、変化する人の世と、変わらない自然とを対比させて感慨にふける。後半は国お憂い妻子を思い、心労によって急激に衰えた身を嘆くことをもって結ぶ。

【通訳】 国都長安は戦乱のために破壊されてしまったが、自然の山や河は昔どおりに残っている。この城内は春になっても、草木が深く生い茂っているのみで、人陰すら見えない。自分はこのいたましい時世に感じて、平和な春ならば花を見て楽しいはずなのに、かえって花を見ては涙をはらはらと流してしまう。家族との別れを恨み悲しんで、心を慰むべきはずの鳥にも心を驚かされる。戦火は三ヶ月もの長い間続き、家族からの手紙もなかなか来ないので、万金にも相当するほど貴重に思われる。自分の白髪頭をかくと、心労のために髪の毛も短くなってしまい、役人が頭につける冠をとめるかんざしも挿せないほどになってしまった。